さいとうせんせいへ

美しい日本語を声を出してなんたらかんたらというせんせいよ、おれがそんな授業受けさせられてたら、一生無口で生きてたぜ。ちょっと吃るし、考えの先にある言葉が、まだたどり着かないうちにやってくるので、論理をいちどしゃべりながら構成するということをやってんだよ、おれは。口はまわらんし。美しいもクソもない。

大文字のことばを「美しい」と無邪気に語るな。世界には、吃り、言語障害、手話、点字という「ちいさな」ことばが多数存在する。
あなたはエリートで「健康」だからそんな本ばかり書き散らしてたらいいさ。
今度はニーチェですか・・・・。まいったな。

いま、小説はこんな連中と闘うためにある。
おれが今きめた。
21世紀日本文学はここからはじまる。

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恐怖!セミ男

本郷猛が少年仮面ライダー隊とのパトロールを終え、いささか憮然とした表情で、というのはライダー隊員が自転車部隊なので、それにあわせダルい速度でお供をせねばならず、このガソリン高騰の時に、と内心懐具合を考えていたからで、立花のおやっさんからはガソリン代は自分持ちで、と言われた時の表情とともに、ちょっと公園でふて寝をしようかと、ベンチに横になりかけた時、それは現れた。
量販日曜大工店で買ったと思わしき自転車に、スーパーの半透明のビニール袋とハンドルを左手に、キャップをかぶった痩せぎすの40代半ば、という男。
「出たな、ショッカーの改造人間!」
とっさに猛は変身ポーズをとった。
しかし、男は人慣れした口調で言った「あっお昼寝中すんません。ちょっといいですか」と猛の足下を歩いていたセミの幼虫に手を伸ばした。
そうか、こんな時分に出てくるのかと猛は感心したとともになにか自然の摂理にふれたような気がした。
「これね、唐揚げにしたら美味しいんですわ。沖縄で食べるとか聞いて、やってみたら、エビみたい。なんかドロっとしたもんでてくるかとおもたら、全然そんなことない」とすでに10匹ほどはいってるビニール袋を手にしてにこやかに言った。
「にいちゃんもやってみぃ」と言ってセミ男は去って行った。
おやっさんへのお土産にいいかもな、と猛は数匹が羽化めざして這い回る地面を見回した。

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お昼の短歌

大木の影のみ今は暖かい 一歩ふみだしゃ冷たい炎暑     

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小説 DON'T TRUST OVER 30 #2

歩道橋の上で、待たされた。約束の時間は20分過ぎた。良かった、付き合わなくて良い。そもそも、どういう経緯でこうなったかと言えば、孤高のギタリストたる川島啓二が、英語でなくてはロックはわからない、というはっぴいえんど以前の問題(もっともそれは決着が着いたとは言えないが)、という妄想を抱き、それで近所のイングランド人営む英会話教室におもむき、うまい具合にその講師が英会話教師仲間でバンドをやってたというわけだ。

繁華街、風俗街、ターミナル駅のあるK橋にあるライブバーで、英会話講師のバンド『ファイヤーフォックス』のライブに誘われて、川島と、他の受講者、講師パトリックの妻と一緒に観に行った。さすがに英会話教室での生徒が多いのは、その雰囲気でわかった。女性の彼らに接する仕方は、日本人男性に対するものとは違う。彼らはここまで甘えさせてくれる、ということが、彼女らの身体的コミュニケーションからプンプン臭う。みっともないと、この国の風習なら言われるような態度も、ここでは許される。
どうせ白人欧米人狙いだろう。自立やら言ったって、所詮甘える所を人は求める。いや、逆に必要となる。それが、白人欧米人なら見栄も友人にはれる、ということだ。これがアジア系英語圏の人間なら、はたして相手にするのかな。と、バー に入って数分で機嫌が悪くなってきた。曲はジミヘン、ブルーオイスターカルトの「ゴジラ」その他アメリカンロック、オンパレードで全くつまらない。今は、何年なんだ。もう帰ろう。
離れた席に座ってる、年配夫婦は、この手の音楽にどう反応していいのかわからず、微動だにしない。そして女性達は、知り合いの欧米人講師をみつけては、毛唐風ボディーランゲイジでおもてなし。パンパンか。
バンドメンバーはパトリックを除いて、カナダ人。パトリックはキーボード担当で、黙々と「裏方」に徹している。
ビール注文して来て、とカウンターに近い川島に何気なく言うと、行くんですか?と彼はそんなこと恥ずかしくてできない、というようなそぶり。今までの付き合いからわかってたが、それぐらい‥と、わざわざ彼を椅子からどかして、カウンターで注文。と、こんなことにいろんな手続きが必要なんだ。

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小説 DON'T TRUST OVER 30 #1

待ち合わせた駅の切符自動販売機前で、暗い顔して立っているのが奴なのだが、ギャランティーはどうするの、と紹介してくれたイングランド人英会話講師に言われた、と語る奴に、また巻き込まれたとうんざりしつつも、約束してあるのだから行かなければならない。でも出来たら行きたくない。俺はうまく弾ける訳じゃない。ただ楽しみたいだけだ。しかし、もう楽しみでもなんでもない。義務だ。殉教者にはなるつもりはない。お前はなれよ。不器用なんですか、なんてはじめて言われた、こいつに。器用なお前なら誰もが認めてくれるさ、俺なんか相手にしなくてもさ。でもわかった。お前がバンドを組めない理由が、わかりながら、こうして、またこいつの不始末に付き合ってる。10万ぐらいなら・・・と、改札を抜け、ホームへ向かう階段をギター背負って上って行く姿、ギターの殉教者。
O市、U交差点。百貨店どうしをつなぐかたちの歩道橋が待ち合わせの場所。黒人セミプロドラマーとの。いきなりそんなのに付き合わされる、こっちの心境など慮りはできないこいつのあせりに、この先振り回されるのは・・・。

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